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大阪高等裁判所 昭和38年(ネ)1058号 判決 1966年12月22日

控訴人(原審参加人) 大和殖産商事株式会社

被控訴人(原審被告) 徳井喜隆

被控訴人(原審原告) 高山章 外一名

主文

原判決を取消す。

本件を大阪地方裁判所へ差戻す。

事実

控訴代理人は「原判決を取消す。控訴人と被控訴人等との間において、別紙目録〈省略〉記載物件は控訴人の所有であることを確認する。被控訴人徳井喜隆は控訴人に対し、右物件につき大阪法務局今宮出張所昭和三一年一一月一六日受付第二四九八一号を以てなされた所有権移転登記の抹消登記手続をせよ。被控訴人川井美智子、同高山章は、右物件につき昭和三二年八月六日の相続を原因とする所有権移転登記を為した上、控訴人に対し、同年一二月三〇日の代物弁済を原因とする所有権移転登記手続をせよ。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人等の負担とする。」との判決を求め、被控訴人徳井喜隆訴訟代理人は「本件控訴を棄却する。訴訟費用は第一、二審とも控訴人及び被控訴人川井美智子、同高山章の負担とする。」との判決を求めたが、被控訴人川井美智子、同高山章は何等の申立をも為さない。

当事者双方の事実に関する主張、証拠の提出援用認否は、

控訴代理人において、控訴人は被控訴人川井、高山に対し本件物件の所有権移転登記を求める請求権を有するから、右請求権に基き、債権者代位として、同被控訴人等が被控訴人徳井に対して有する本件物件の所有権移転登記抹消登記請求の権利を行使する。原判決が控訴人の異議にも拘らず被控訴人川井、高山の訴取下を有効として取扱い、同人等の請求につき何等判断を為さなかつたのは、違法であり、訴訟手続違背である、と述べた。

証拠関係〈省略〉………のほか

原判決事実摘示と同一であるから、これを引用する。

理由

職権を以て按ずるに、本件は、被控訴人(原審原告)高山こと川井美智子、同高山章が被控訴人(原審被告)徳井喜隆に対して提起した所有権確認等請求事件(大阪地方裁判所昭和三四年(ワ)第二九七九号)の係属中に、控訴人(原審参加人)が右訴訟の原、被告双方を相手方として民訴法第七一条に基く当事者参加訴訟(同庁同年(ワ)第四〇四一号)を提起したところ、その後被控訴人川井、同高山がそれぞれ被控訴人徳井に対する訴(本件基本訴訟)の取下を為したので、被控訴人徳井は右各取下に対しいずれも異議(不同意)を述べたこと、原審裁判所は右異議に対する判断を保留したまま口頭弁論を終結し、原判決において初めて、右基本訴訟の取下は参加人たる控訴人の同意を必要とせず、従つてその不同意にも拘らず取下は有効であり、基本訴訟は右取下(これに対する被控訴人徳井の同意)により終了した旨判断したことは、本件記録に徴し明白である。

ところで民訴法第七一条の当事者参加制度が設けられている趣旨は基本訴訟の当事者双方間の判断と、これらの当事者と参加人との間の判断とが矛盾、牴触することのない判決を得るところに在つて、基本訴訟の当事者が馴合、通謀等により得た判決により第三者がその権利を害せられることを防止する効果を得しめることは、さし当り本制度の目的とされるところであるから、基本訴訟に第三者が当事者として参加した場合に、参加人の意に反して基本訴訟のみを終了せしめ、判決の合一的確定のために折角設けられた機構を安易に解体せしめる途を許容することは、本制度の趣旨に背馳することは極めて明白というべきであり、基本訴訟の当事者間の訴取下につき参加人の同意が必要であるか否かは、何よりも右制度の目的、機能より見て、かつ民訴法第七一条が同法第六二条を準用した所以を勘案してこれを決しなければならない。そして一見右取下と類似するが如き同法第七二条所定の訴訟脱退の場合は、判決が脱退当事者に対しても効力を有するものとされ、その理由は、脱退者が参加人に実質的に訴訟委託をしたものと解される結果、脱退者は、脱退後に参加人と残留当事者との間に与えられた判決の判断に牴触する主張をもはや脱退前の相手方に対しても亦これを為し得ざるに至るものと解釈せられ、判決の合一的確定とほゞ同一の効果が顕現せられるのに反し、基本訴訟の取下の結果は、判決後において、取下前の相手方に対する取下者の主張の拘束を何等招来せず、別に参加人の権利を害すべき馴合訴訟等を提起し得る余地を優に与えることになるから、訴訟脱退が参加人の同意なく行い得ると解される余地があることより直ちに、基本訴訟の取下も同様に参加人の同意なく為し得るものとし(原判決の見解)、又はかゝる取下を以て脱退と同視して有効視する見解にはたやすく同調し得ない。そうすると、参加人の同意のない基本訴訟の取下は、民訴法第七一条の所期する目的に反し、基本訴訟の当事者に参加の拘束力脱出の途をあまりにも容易に獲させるために、不当な結果を生ずる虞が充分あるものとして、これを許容し得ないことはもはや多言を要しないであろう。

そうすると、原審において原告たる被控訴人川井、高山の為した基本訴訟の取下については、その後も参加人たる控訴人の同意のないためいまだその効力を生じていないものと認めざるを得ないところ、前述の通り原裁判所は格別右取下の効力を判断することもなく、これ当事者の見解に委ねて訴訟を進行せしめた結果、基本訴訟の当事者たる被控訴人川井、高山及び同徳井は右取下を無効として基本訴訟につき弁論を為した形跡のないままで弁論終結に至り、しかも基本訴訟における原告たる被控訴人川井、高山の申立自体については原判決において何等の判断を与えなかつたことも、記録上明白であり、右の結果は、必然的に基本訴訟の当事者であつた被控訴人等に不服申立の対象となるべき判決を示さず、従つて不服の途を閉ざしたため、同人等に審級の利益を何等付与しない結果となつて現われるに至つた。右のような原審の処理と見解は、判決において、基本訴訟の当事者間の訴訟物と申立を見失つた結果、そこに生じた判断は、右の前提があれば、当然にその判断の内容に実質的影響、差異をもたらす可能性ないし余地のある判断と解せざるを得ないから、それは形式的には、一部の当事者の間の判断を欠如した判決であると共に、内容においても、右の意味における抽象的な違法性を含むものであるから、全体として取消を免れないと共に、そこに見られる形式的な判断の欠如は、これを手続面に還元すると、当事者に一審級を失わせた結果と同一に見ることができるから、当裁判所としては、取消自判の途を撰ぶことは正当でないと判断し、本件を原裁判所たる大阪地方裁判所ヘ差戻すべきものとする。

よつて民事訴訟法第三八六条第三八九条第一項を適用して主文の通り判決する。

(裁判官 宮川種一郎 黒川正昭 小谷卓男)

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